「法定相続人って何だ?」相続で揉めたときに役立つ【遺産を相続できる権利】について知っておこう!

シンプルな家系図

もし、相続について何も決めずに亡くなってしまったら、遺産はどうなるのでしょう?

そのような場合、残された家族が話し合って、誰と誰がどのように遺産を分けるか決めることになります。

でも、それは簡単なことではありません。
関係者全員が納得できる方法で遺産を分けることは簡単ではありませんし、話し合いが決裂して家族が断裂してしまう可能性だってありますからね。

そんなときに頼りになるのが、法律で定められた遺産相続に関するルールです。

実は、国の法律で、遺産を相続する権利を持つ人とそれぞれの相続できる割合が明確に決められています。
遺産相続がどうしても決まらない場合は、法律に従って決めることができるのです。

【 法律で決まっていること】

・誰が遺産を相続するか?
・遺産をどれだけ相続するか?

法律で決められた「遺産を相続する権利」を持つ人のことを、「法定相続人」といいます。

今回は、法律で定められた遺産を相続する権利を持つ「法定相続人」について詳しく見ていきましょう!
正しい知識を知っていれば、いざというとき、きっと役に立つはずです。

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目次

「法定相続人」という言葉は、法律用語ではない

まず最初に確認しておくことがあります。

実は、「法定相続人」という言葉は法律用語ではありません

ネットなどでもよく使われているので、勘違いしてしまいがちですが、正式な用語ではないということをしっかり理解しておきましょう。
遺産相続のルールが定められている「民法」の中に、「法定相続人」という用語は登場しないのです。

民法に、「法定相続人」という法律用語は存在しない

では、遺産を相続する人のことを何と呼べばよいのでしょう?

民法の中では、遺産を相続する人のことを、単に「相続人」と呼んでいます。

なぜ、わざわざ「法定相続人」という言葉が使われているのかというと、遺産を相続する人には、2種類のケースがあるからです。

遺産を相続する「相続人」には、2つのケースがある

民法の中では、遺産を相続する人のことを、「相続人」と呼びます。
しかし、単に「相続人」といっても、実は2種類のケースがあるのです。

1つ目は、遺言書で指定されて遺産を相続する場合。

そして2つ目は、法律(民法)で定められた、遺産を相続する権利を元に遺産を相続する場合です。

法律上は、どちらのケースも「相続人」です。
しかしそれではややこしいので、この2種類の相続人を明確区別するために、前者を「指定相続人」後者を「法定相続人」と呼んでいるのです。

指定相続人:遺言書で指定された相続人
法定相続人:遺産を相続する法的な権利を持つ相続人

「法定相続人」という言葉は正式な法律用語ではありませんが、遺言書で指定された相続人と区別するために、一般的に使われる用語です。

ということを、理解しておきましょう。
この記事の中でも、法定相続人という言葉を使って遺産相続について説明していきます。

法定相続人が必要になるのは、相続が決まらないときだけ!

この記事では「法定相続人」について解説していますが、遺産を相続するときに、必ずしも「遺産を相続する権利」を気にする必要はありません。

遺産を相続するのは、実は、誰でもいいのです。

通常の相続の場合、法律で決められた「遺産を相続する権利」などを気にする必要はありません。
遺言書で指定された人がすべてを相続してもいいし、話し合いで自由に決めることもできます。

しかし、遺産相続がどうしてもまとまらない場合。
あるいは、遺産相続で揉めてしまった場合などがあると思います。

そのようなときに、法律で定められた「法定相続人」が遺産を相続する。という手段を選ぶことになるわけです。

「法定相続人」が必要になるケース

● 遺産を誰が相続するか決まっていない
● 誰が遺産を相続するか揉めている

ドラマや様々なメディアの影響で、「法定相続人」という言葉が知られるようになりました。

しかし、必ずしも法定相続人だけが遺産を相続するわけではありませんし、法律で認められた権利がなければ遺産を相続できないわけでもありません。
この点を勘違いしないよう、注意しておきましょう。

法定相続人になれるのは配偶者、卑俗、尊属、兄弟、甥姪まで

相続人となり得る者は、被相続人の

① 子(又はその代襲者)
② 直系尊属(父母、祖父母など)
③ 兄弟姉妹(又はその代襲者)

並びに
④配偶者(法律上婚姻関係にある者で、内縁関係を含まない。)

出典:国税庁「民法の相続制度の概要」

それでは、法定相続人について詳しく見ていきましょう!

まず、遺産を残す方についての呼び方を確認しておきましょう。
亡くなって遺産を残す方のことを「被相続人(ひそうぞくにん)」と呼びます。

法定相続人となる可能性があるのは、被相続人の配偶者、子や孫など、親や祖父母など、兄弟、甥姪です。
被相続人と血縁関係のある人が誰でも「法定相続人」なれるわけではないという点に注意が必要です。

①【卑俗】子(又はその代襲者)

被相続人の子どもは、全員が法定相続人となります。養子縁組を結んでいる方も含みます。

子がすでに亡くなっている場合、もし、その方の子(つまり、被相続人の孫)がいれば、遺産を相続する権利が孫に引き継がれます。
孫もなくなっている場合は、孫の子(被相続人のひ孫)へ。さらに、玄孫、その先の子というように、子孫がいる限り遺産を相続する権利が引き継がれていくわけです。これを、代襲(だいしゅう)といいます。

ちなみに、被相続人の子や孫などのことを、法律上「卑俗(ひぞく)」と呼ぶようです。
使う機会はなさそうですが、かなり独特な表現ですね。

卑俗が一人でもいれば、子が遺産を相続する権利はすべてその方のものになります。
なんと、胎児(お腹の中にいる子)にも権利が認められているのです!

ただし、子や孫の配偶者には引き継がれません
血縁がなければ家族でも対象外なのですね…。

②【尊属】父母、祖父母など

上記①に該当する人が誰もいない場合、遺産を相続する権利は、被相続人の親に移動します。

つまり、被相続人の子や孫がいなければ、親が法定相続人になるわけですね。

被相続人の親がすでに亡くなっている場合、もし、その方の親(つまり、被相続人の祖父母)がいれば、被相続人の祖父母が法定相続人となります。
レアなケースですが、曾祖父、高祖父母などがいる限り、さかのぼって法定相続人となります。

ちなみに、被相続人の親、祖父母、曾祖父などのことを、法律上「尊属(そんぞく)」と呼びます。

兄弟姉妹(又はその代襲者)

上記①、②に該当する人が誰もいない場合、遺産を相続する権利は、被相続人の兄弟に移動します。

つまり、被相続人の子や孫、親、祖父母もいない場合、被相続人の兄弟が法定相続人となるわけです。

兄弟がすでに亡くなっている場合、もし、その方の子(つまり、被相続人の甥姪)がいれば、被相続人の甥姪が法定相続人となります。
ただし、①、②のケースとは異なり、代襲はここでストップ。甥姪の子どもに遺産を相続する権利が引き継がれることはなく、権利は消滅します。

また、①のケース同様、兄弟甥姪の配偶者は対象外となります。

④ 配偶者

被相続人の配偶者は、法定相続人になります。

ただし、配偶者がすでに亡くなっている場合、配偶者の遺産を相続する権利はなくなります。配偶者の親や兄弟が遺産を相続する権利を引き継ぐことはありません。

配偶者以外の「法定相続人」には順位がある

詳細な相続関連図

前章の「法定相続人」についての説明で、「法定相続人となる可能性がある(相続人となり得る)」という言い方をしました。
これには、理由があります。

前章でご紹介した①~③に該当する方たちは、全員が必ず法定相続人になるわけではないのです。

実は、法律で定められた相続には順位があります。
つまり、自分よりも優先順位が上の人がいない場合に、法定相続人になれるというわけなのです。

相続の順位について、詳しく見ていきましょう!

配偶者は常に相続人になる

遺産相続において、被相続人(なくなった方)の配偶者は最も優先順位が高く、常に法定相続人となります

被相続人に子どもがいる場合は、配偶者と子どもが遺産を相続します。
子どもや孫などがいない場合は、被相続人の親と被相続人の配偶者が遺産を相続。同様に、親や祖父母もいない場合は、被相続人の兄弟と、被相続人の配偶者が遺産を相続することになります。

つまり、常に、被相続人の配偶者と、他の誰かが遺産を相続するというわけです。

【遺産相続の一例】
・被相続人の配偶者と、被相続人の子が法定相続人となる
・被相続人の配偶者と、被相続人の親が法定相続人となる
・被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟が法定相続人となる
など

被相続人の配偶者が亡くなっている場合や、被相続人が独身の場合、配偶者の権利はなくなり、他の法定相続人が遺産を相続します。

子の権利が孫、ひ孫などに引き継がれるケース

被相続人の子は、全員が法定相続人となります。

ただし、非相続の子のうち誰かが亡くなっている場合、その人が得るはずだった相続の権利は、その人の子、孫、ひ孫などに引き継がれます。
これを、代襲(だいしゅう)といいます。

【遺産相続の一例】

▶被相続人の配偶者がいる場合
・被相続人の配偶者と、被相続人の子1、子2、子3が法定相続人となる
・被相続人の配偶者と、被相続人の子1、子2、子3の子(被相続人の孫)が法定相続人となる
など

▶被相続人の配偶者がいない場合
・被相続人の子2の子、子3の子(被相続人の孫)が法定相続人となる
・被相続人の子3の(被相続人の孫)だけが法定相続人となる
など

被相続人と血のつながった子、孫、ひ孫などが一人でもいれば、その人が法定相続人となります。
誰もいなければ、遺産を相続する権利は被相続人の親に移動します。

注意すべき点は、遺産を相続する権利を放棄したケースです。被相続人の子が遺産を相続する権利を放棄すると権利はそこで消滅し、その人の子や孫などに引き継がれることはありません

親、祖父母、曾祖父などが相続するケース

被相続人の子、孫、ひ孫などが誰もいない場合、または権利を放棄した場合、被相続人の親が法定相続人となります

もし、被相続人の親が亡くなっており、被相続人の祖父母が健在の場合は、祖父母が法定相続人となるのですが、子や孫の場合と違って、権利が引き継がれる(代襲する)わけではない点に注意が必要です。

例えば、被相続人の父親が亡くなっている場合、被相続人の母親が法定相続人になります。父方の祖父母が健在だったとしても法定相続人にはなりません。
被相続人の親が二人ともなくなっており、祖父母が健在の場合は、祖父母が法定相続人となります。

【遺産相続の一例】

▶被相続人の配偶者がいる場合
・被相続人の配偶者と、被相続人の父が法定相続人となる
・被相続人の配偶者と、被相続人の母の母親(被相続人の祖母)が法定相続人となる
など

▶被相続人の配偶者がいない場合
・被相続人の父と母が法定相続人となる
・被相続人の父の両親(被相続人の祖父母)が法定相続人となる
など

被相続人と血のつながった親、祖父母、曾祖父母などが一人でもいれば、その人が法定相続人となります。
誰もいなければ、遺産を相続する権利は被相続人の兄弟に移動します。

このケースは代襲ではないので、遺産を相続する権利を放棄しても権利は消滅しません。祖父母、曾祖父母がいれば、その人が法定相続人となります。

兄弟、甥姪が相続するケース

被相続人の子、孫、ひ孫など、親、祖父母などが誰もいない場合、または権利を放棄した場合、被相続人の兄弟全員が法定相続人となります

非相続の兄弟のうち誰かが亡くなっている場合、その人が得るはずだった相続の権利は、その人の子に引き継がれます。つまり、被相続人の甥姪が法定相続人となります
ただしこの場合、その先に代襲されることはありません。被相続人の甥姪もいなければ、遺産を相続する権利はそこで消滅します。

【遺産相続の一例】

▶被相続人の配偶者がいる場合
・被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟1、兄弟2、兄弟3が法定相続人となる
・被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟1、兄弟3の子(被相続人の甥姪)が法定相続人となる
など

▶被相続人の配偶者がいない場合
・被相続人の兄弟2だけが法定相続人となる
・被相続人の兄弟3の子(被相続人の甥姪)だけが法定相続人となる
など

被相続人の兄弟が遺産を相続する権利を放棄すると権利はそこで消滅し、子(被相続人の甥姪)に引き継がれることはありません。
被相続人の兄弟、甥姪がいない場合または権利を放棄した場合、被相続人の配偶者がすべての遺産を相続します。

では、被相続人に身寄りがなく、遺産を相続する人が誰もいなかったらどうなるでしょうか?
そのような場合、被相続人の遺産はすべて国庫に入ることになります。つまり、国の財産になのです。

血縁のない配偶者は対象外

法定相続人となるのは、被相続人の血縁者だけです。
従って、被相続人の子の配偶者、孫の配偶者、兄弟の配偶者、甥姪の配偶者は法定相続人にはなりません

誰が法定相続人となるかは、それぞれの状況次第

法律で定められた、遺産を相続する人と優先順位についてご紹介しました。
少々ややこしい解説になりましたが、法定相続人についてイメージできましたでしょうか?

もしかしたら、「結局、一体誰が法定相続人になるの?」と思われたかもしれません。

残念ながら、法定相続人について一言で説明することは困難です。実際に誰が法定相続人となるかは、それぞれの方の状況によって全く違ってくるからです。

しかし、法定相続人となる条件や順位は明確に決まっていますので、ご自分の状況を当てはめることで、今現在の、法定相続人となる可能性を知ることができます。

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