「一体どうやって、遺骨がダイヤモンドになるの?」という疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
遺骨から作られるメモリアルダイヤモンド(遺骨ダイヤモンド)は、いわゆる「合成ダイヤモンド/人工ダイヤモンド」と呼ばれるものの一種です。
合成とはいえ、天然のダイヤモンドと同じように美しい輝きを持つ宝石。成分も、天然のダイヤモンドと全く同じものでできています。
宝石の王様ともいわれる美しいダイヤモンドと、亡くなった人やペットの遺骨。
この二つが、一体どうやって結びつくのでしょうか?
その不思議な生成プロセスをのぞいてみましょう!
まずは、天然のダイヤモンドができあがる仕組みから見ていきます。

天然のダイヤモンドは地球の奥深くで眠っている

天然のダイヤモンドは地球の奥深く、地表から100キロ以上、あるいはさらに遠く深い場所に眠っています。
美しい天然のダイヤモンドは希少性が高く、とても価値のある宝石ですが、実は地球内部には膨大な量のダイヤモンドが存在することをご存知でしょうか。
マントルには膨大な量のダイヤモンドが存在する
地面から何百キロも離れた地中の奥深く、マントルとよばれるエリアには、ダイヤモンドやさまざまな鉱石が煌めく場所があると考えられています。その量はなんと、1000兆トン以上!
しかし、人間が地面を掘ることができるのはわずか10キロ程度なので、ダイヤモンドで埋め尽くされたエリアへはたどり着くことができません。
ごくまれに、地中のダイヤモンドが地殻変動や火山の噴火などで地表に運ばれることがあります。
それが、アフリカや限られた地域で発掘され、現在私たちが手にしているダイヤモンドなのです。
ダイヤモンドは45億年前から地球にあった?

地球上に存在する天然のダイヤモンドは、いつ頃作られたものなのでしょうか?
これまでに発見されたダイヤモンドの中で最も新しいものは、およそ1億年前に作られたものだということがわかっています。1億年前という、気が遠くなりそうなほど遥か昔から地球上に存在しているのですね。
「では、最も古いダイヤモンドは?」というと、なんと、45億年前!
地球の誕生とほぼ同じ頃から存在していたダイヤモンドは、宇宙のどこかからやってきたのではないかと考えられています。
天然のダイヤモンドは高温高圧の環境で作られる
天然ダイヤモンドの多くは、地中のとても深い場所、恐ろしいほど高温高圧の環境で作られています。
地下深くに存在する炭素が高温高圧で押し固められ、何百年もの時間をかけて結晶になったものがダイヤモンドなのです。
地中の高温高圧の環境を再現し、炭素を結晶化させて作られるのが「合成ダイヤモンド」です。
合成ダイヤモンドを作る技術は年々進化しており、地中よりもさらに高い温度と圧力をかけることで、より短い時間でダイヤモンドを精製することを可能にしています。
ダイヤモンドはほぼ炭素だけから作られる
ダイヤモンドを化学式で表すと、「C」。
一文字だけで表すことができるのです。これは、ダイヤモンドが炭素だけで作られていることを意味しています。
ダイヤモンドはほぼ単一の元素だけでできている、とても珍しい宝石なのです。
ダイヤモンドを構成するのは、99.95%の炭素とごくわずかないくつかの元素です。このわずかな元素の種類や量によって、ダイヤモンドの色やかたちが違ってきます。
例えば、ブルーダイヤモンドには微量のホウ素が含まれていますし、窒素が含まれるとイエローダイヤモンドになります。
そのほか、結晶構造のわずかな歪みなどによっても、精製されるダイヤモンドの色が変わることがわかっています。
遺骨からダイヤモンドを作る仕組み

それでは、メモリアルダイヤモンド(遺骨ダイヤモンド)が精製される仕組みを見ていきましょう。
前の章でご紹介したように、天然のダイヤモンドは炭素から作られています。そして、地中よりも高温で高圧な環境を用意することができれば、地上でダイヤモンドを精製することが可能なのです。
メモリアルダイヤモンドは人工的に作られるものですが、その成分・硬度・輝きなど、いずれも天然のダイヤモンドと変わらない性質を備えています。
遺骨から炭素を抽出し黒鉛を精製
遺骨からダイヤモンドを作るためには、まず最初に、遺骨から炭素を抽出する作業を行います。
人間の体の大部分は炭素でできているので、火葬した骨からも十分な量の炭素を取り出すことが可能です。
その後、抽出した炭素から「黒鉛(グラファイト)」という鉱物を精製します。
一旦、炭素を豊富に含む黒鉛に形を変えることで、ダイヤモンド精製を可能にしています。
超高温高圧の環境でダイヤモンドを精製
メモリアルダイヤモンドを製造する施設では、特殊な装置の中でダイヤモンドを精製します。
特別なカプセルの中に、黒鉛と金属、核となるダイヤモンドを入れて、装置の中にセット。1300~2000度という高温、5万気圧以上の圧力をかけます。すると、黒鉛の分子が分解されて結晶化して核に付着、ダイヤモンドが少しずつ育っていきます。
より長い時間をかけることで、大きなダイヤモンドを作ることも可能です。
溶けて固まった金属の中からダイヤモンドを取り出し、核となるダイヤモンドを取り除くと、メモリアルダイヤモンドの原石が完成します。
超高温高圧な環境を作りだすダイヤモンド合成装置は非常に高価で、取り扱いがとても難しいため、メモリアルダイヤモンドを作ることができるメーカーは世界に数社しかありません。
メモリアルダイヤモンドの色が変わる秘密

原料から不純物をすべて取り除いた、100%純粋な炭素から精製されるダイヤモンドは、無色透明(カラーレス)になります。
前の章でもご紹介したように、抽出した炭素にごくわずかに含まれるホウ素や窒素、水素といった元素の影響で、精製されるダイヤモンドの色が変わります。あるいは、放射線を照射することで結晶構造に歪みや欠陥を生じさせ、色を変えることも可能です。
精製されるメモリアルダイヤモンドの色を指定する方法は、メーカーによって異なります。
いくつかのカラーから選べる場合もありますし、特別な手を加えず自然に任せているメーカーもあります。この場合、遺骨に微量に含まれる成分により色合いが変わるため、完成するダイヤモンドの色を選ぶことはできません。しかし、手を加えずに作られるメモリアルダイヤモンドは、唯一無二。どのような色になるのか完成するまでわからない点も、魅力のひとつと言えるかもしれません。
炭素はさまざまな物質に含まれている
メモリアルダイヤモンドの原料となるのは、遺骨だけではありません。
火葬された後の灰、髪の毛、洋服、写真などさまざまな物からメモリアルダイヤモンドの原料となる炭素を抽出することができます。
そもそも、炭素は地球の大部分を構成する主要元素のひとつで、生物や大気、紙、プラスチック、布などさまざまな物に含まれています。
つまり、遺骨だからダイヤモンドを作れるのではなく、炭素を含むものならなんでもダイヤモンドの原料とすることができるのです。
遺骨の量が十分でない場合や、遺骨を用意できない場合でも、故人の身近な持ち物などからもメモリアルダイヤモンドを作ることができます。(メーカーにより対応できない場合もあります)
メモリアルダイヤモンドができるまでの流れ

最後に、メモリアルダイヤモンドが完成するまでの流れを見ていきましょう。
① 遺骨の分析・調査、ID付与
② 炭素を抽出、黒鉛を精製
③ ダイヤモンドを精製
④ カット・研磨・ID刻印
⑤ ジュエリー加工
① 遺骨の分析・調査、ID付与
ダイヤモンドを製造する施設に送られた遺骨は、それぞれ個別のID(管理番号)が付与されます。
その後、遺骨の成分を分析するための調査などが行われます。
② 炭素を抽出、黒鉛を精製
遺骨から炭素を抽出し、さらに、抽出した炭素を黒鉛(グラファイト)に変換する処理を行います。
③ ダイヤモンドを精製
高温高圧の環境を作り出す特別な装置で、ダイヤモンドを生成します。
④ カット・研磨・ID刻印
完成したダイヤモンドの原石をカット・研磨し、美しい輝きを持つダイヤモンドに仕上げます。
お預かりした遺骨から作られたものであることを保証するために、ダイヤモンド本体に、IDを目に見えないほど小さくレーザー刻印を施します(メーカーによる)。
⑤ ジュエリー加工
完成したダイヤモンドは、専用の工房でジュエリーに加工されます。
メーカーによっては、研磨や加工を行わない状態のダイヤモンドを購入することも可能です。
まとめ
メモリアルダイヤモンドの製造工程、遺骨からダイヤモンドを精製する仕組みについてご紹介しました。
遺骨がダイヤモンドに生まれ変わる様子をイメージできたでしょうか。
世界で最初にメモリアルダイヤモンドを販売したのは、アメリカのライフジェム社です。
その始まりは、ライフジェム社の創業者であるラスティ・バンデンビーセン氏が、幼い頃から死に対する不安感や恐怖感を抱いていたことでした。
ダイヤモンドが炭素の結晶であること、そして、亡くなった人の遺骨や灰も、ダイヤモンドの元となる元素と同じ「炭素」でできていることを知り、死への恐怖をやわらげる方法として、遺骨をダイヤモンドにすることを思いついたのです。長年に渡る研究と試行錯誤の末、遂に、遺骨から純度の高い炭素を抽出しダイヤモンドを精製する技術を確立しました。
メモリアルダイヤモンドのサービスが世界で最初に登場したのは、2002年。
これからさらに需要が増えていくことで、より便利で魅力的なサービスになっていくことが期待されます。
